野菊荘機関誌より


私(芹沢出)が母子生活支援施設の機関誌に書いた原稿を掲載しています。

 平成10年1月1日発刊 「母子寮便り」より

 平成9年1月1日発刊 「母子寮便り」より

 平成8年12月20日発刊 「山ノ内母子寮 福祉の野菊会」より

 

平成10年1月1日発刊「母子寮便り」より

「母子寮便り」は京都母子寮協議会が発行している機関誌です。

 新年明けましておめでとうございます。皆様方には、京都母子寮協議会にご理解と、ご支援を賜り感謝いたしております。どうぞ本年もよろしくお願い申しあげます。

 いよいよ今年4月1日から、改正された児童福祉法が施行される。
 今回の児童福祉法の改正では、利用者選択・地域サービスへの展開が改正の中心であった。児童の権利がより明確にされることを期待したが、残念ながら今回は全く改正されたところはなかった。

 社会の中での人権意識は少しずつ高まりを見せている。しかし、母子寮では、夫の暴力による逃避入寮が後を絶たない状況が続いている。

 母子寮に逃げてきた母親から状況を聞くと、夫から暴力を受けていたとき、その悲鳴や物音を聞いて隣近所の人が警察を呼んでくれたが、警察は何もしてくれなかった。家まで来て事情は聞いてくれるが、夫婦と分かると暴力を降らないように注意をして帰ってしまう。また翌日になれば暴力を降られる。これの繰り返しであったと話す。

 日本の警察には民事不介入の原則である。夫婦喧嘩は、民事であるから嫌なら裁判所へ行って離婚しなさいと言うことである。

 ところが現実には、夫に離婚の話をすると暴力を降られる。暴力を降られるのが怖くてとても裁判所へなど行けないと言うのが現実である。

 身の安全を守るために母子は、暴力から逃げ、隠れて生活するしかないのが現状である。

 児童の権利条約の批准について、民法を改正するべきであるいう論議が、あちこちでされていながら、改正なしに批准し、今度の児童福祉法の改正においても、子どもの権利問題について何も前進がなかったことはとても残念である。

 子どもの人権問題から家庭内の人権、夫婦間の人権まで人権意識が高まっていく事が必要だと思うが、日本の現状ではまだ、これを法律で保証する事は時期が早すぎるのだろうか。

 

平成9年1月1日発刊 「母子寮便り」より

「母子寮便り」は京都母子寮協議会が発行している機関誌です。

 今年は、児童福祉法制定50年に当たり、厚生省では、児童福祉法の改正を行おうと準備を進めている。
 母子寮関連法案は、救護法(1932年(昭和7年))。軍事扶助法(1937年(昭和12年)7月)と母子保護法(1937年(昭和12年)3月公布、翌年1月1日施行)。生活保護法(1946年(昭和21年))。児童福祉法(1947年(昭和22年)制定、翌年1月1日施行)と変化してきた。

 現在の児童福祉法は、戦後の混乱期の中で児童を保護するために作られたため、現在の社会状況にそぐわなくなってきている部分も多く、児童の権利を十分に尊重し守るものとは言い難い。

 全国母子寮協議会制度施策委員会では、児童福祉法改正をふまえ、「21世紀にむけて家庭・家族福祉の拠点を目指す」ローズプランを作成中である。

 ローズプランでは理念として、(1)母と子を生活の単位として。(2)子供の最前の利益のために。(3)女性としての自己実現の支援。という3つを掲げている。

 機能としては、子育て支援(保育支援)、相談機能(カウンセリング)、就労支援(就労相談)、緊急保護、さらに地域子育てセンターとしての機能や、父子家庭支援も機能として盛り込まれている。

厚生省は福祉施設制度改革に当たり、まず介護保険制度を導入し、医療制度改革を行おうとしている。そしてその後に駅伝方式で各部分ごとに児童福祉法の改正を行っていく予定である。

 介護保険制度が導入されれば当然我々国民の負担が増大し、さらに医療制度改革で、医療費の自己負担分が増加されるようである。

 制度改革や、国民負担増でできたお金が100%我々国民の生活に還元され、安心して子供を産み育て、そして老いることのできる社会が作られるのだろうか。

 数年前アメリカで、国際社会福祉協議会米国委員会会長、多々良紀夫さんの話を聞く機会があった。多々良さんは、アメリカの悲惨な福祉の現状を話された後で、「日本はなにもPKOなどに自衛隊を派遣し、アメリカがやっていることの後を追う必要はない。今こそ経済大国日本がその経済力を生かし、世界の福祉のリーダーとして世界の福祉をリードして行くべきである」と話しておられた。

 将来を担う子供のためにと策定されたエンゼルプラン断念の噂もあるが、1997年、児童福祉法制定50周年を迎える年に始まる福祉制度改革が、ぜひ福祉先進国日本の夜明けとなってほしいものである。

 

平成8年12月20日発刊 「山ノ内母子寮 福祉の野菊会」 

 福祉の野菊会は、退寮した母子や後援会の方向けに山ノ内母子寮が年1〜2回発行している機関誌です。

 近年、母子寮の母親の就労状況が少しずつ変化してきている。

 バブルの崩壊後、数年間は女性の就労にとって本当に大変な時期であった。母子寮でも、「工員」として就労していた数人の母親が、仕事がないからと、自宅待機となった。これは解雇と同じである。また、「事務員」としての就労者も減少した。まさにリストラの影響をもろに受けたのである。

 反面増加したのが「店員」である。店員就労のほとんどがパートであり、学生アルバイトと同じ仕事である。職業安定所に行き相談しても就労先がなくこのような、就労状況となった母親が多い。

 母子として生活する上で、母親の就労は、就労時間が安定しており、日曜祝祭日が休みであること。そして収入が安定しており、長期間勤めることのできる職場が望ましい。

 これは、家族の経済が母親の収入に依存していること。学校や保育園に通う子供がいることを考えれば当然といえる。

 バブルの崩壊後、増加してきた「店員」という職業は、上記の要素に当てはまらないことが多い。しかし、事務員や店員として就労したくても、就労先がなく、家族の経済を支えるために、仕方なく店員として就労した母親が多かったと思う。

母親就労職種の変化

 不景気といわれ、新聞やテレビで、日本の経済について論議されているが、日常生活の中でどれだけの人が、この不景気の影響を直接受けたのだろうか。私自身も、母子寮に勤め、母親の就労相談をしていなければ、ほとんど不景気を感じないまま生活していたのではないかと思う。

 社会経済のしわ寄せは、いつも母子家庭などの、社会的弱者に押しつけられているのではないだろうか。

 グラフでは、「工員」としての就労が、今年になってかなり回復してきているが、事務員の就労者が増えていかない。リストラが進み、事務のコンピューター化が進んだこと等色々な要因があると思われる。

 事務職の就労面接にいった母親の話では、ほとんどの会社で、ワープロが打てるか、コンピューターは使ったことはあるか、聞かれるそうである。

 この1年ほどの間に、母子寮母親の就労状況は、新たな動きを見せている。

 現在母子寮に、トラックの運転手をしている母親が二人いる。一人は、以前ガソリンスタンドで就労していたが、私のところへ相談にきて、ずっと前からトラックの運転手をするのが夢だった、大型免許も持っているのでこれを生かして仕事をしたいと話した。

 このとき私は、以前に見たテレビを思い出した。それは、母子家庭になった女性がトラック運転手となり、子育てしながらがんばり、運送会社を設立し、社長として成功したというドキュメンタリーであった。
 母子寮の母親も、運転手として就労してすぐに高収入を得て、生活保護を切り、見事に経済的自立を果たしてくれた。

 また、美容師見習いとして働きながら、昔、取りかけて取ることのできなかった、美容師の資格を取りたいという母親がでてきた。 准看護婦の資格を持ち、母子寮の近くの病院に、準社員として就労している母親が、学校へ行き正看護婦の資格を取りたいと相談にきた。正看護婦の資格を取り、夜勤をして正職員として就労したいというのである。

 これらの就労は前述した、母子家庭の母親の就労先として考えるとき、多くの問題がある。休日の問題、労働時間の問題、健康面や安全面の問題であり、これらは、子どもの養育に大きな問題となってくる。

 しかし、私のところに相談に来たこれらの母親はみんな、自分というものをしっかり持ち、自分の夢や目標に向かって生きようとしている。

 私はそれぞれの母親と相談の上、母子寮として母親を全面的に協力援助していくことを決めた。

 このことは母子寮にとって大変なこととなった。残業や、学校に通うための夜間保育(夜10時近くまで保育したこともある)、土曜保育、休日保育、本当に職員に負担をかけることになってしまった。母親の残業を助けるために、職員が残業をしているのである。

 しかし、自分の夢や希望に向かって頑張る母親は、意気揚々と輝いて見える。実際母親は、明るくなり、優しくなった。職員も、母親のがんばりをよく理解し、本当に頑張ってくれている。

 全国母子寮協議会が、現在厚生省と作成を進めている、地域母子ホーム構想ローズプラン(21世紀に向けて家庭・家族福祉の拠点を目指す)の中で、保育や、相談・援助支援と並んで、女性の自己実現、と言う項目が列記されている。

 この女性の自己実現とは、母子寮に入寮している母子に限ったことではないと思う。女性が社会や男性に振り回されて生きて行くのではなく、自らが同じ立場の人間として、自己決定していけるだけの力をつけ、社会風潮を変えていけるようになることだと思う。

 これからの母子寮機能の重要な役割として、夢や希望に向かって生きようとする女性の、自己実現のための援助が、必要となってきているのではないだろうか。

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